COVID-19の嵐が勢いが収まらずリアルな対面ワークショップなどが出来ずに1年半が過ぎようとする中、Maker Faireで度々お世話になっているオライリーさんからお声がけいただき「Cardboard Box – Engineering(Jonathan Adolph著)」というダンボールを使った工作本の監訳をさせていただく事になりました。
「監訳」が何かも分からない中での初挑戦の様子をメモしておきます。
何もわからないので、まずは全部作ってみた
まずは「監訳」についてですが、辞書などによると「翻訳されたものを監修すること」とあったりします。では、その「監修」って何するの?ですが、これは「著述・編集などを監督すること。」とあります。。監督するのかよ!?正直そんな事できるのか?です。。
で担当の編集の方に相談したところ「翻訳された文章を読んで、日本だとコレはできない、だとかこの作り方はNGとか、日本ならではのローカル目線で見てオカシイところを指摘&修正指示ください。」とのことだったので、その辺を中心にまずは見てみることにしました。
そこで最初に取り掛かったのは、掲載されている全ての工作物を作ってみることでした。この段階で、すべての必要な材料の入手のしやすさや使用する道具の検証をするわけです。すると様々なことが目に入ってきました。
行ける限りのスーパー、コンビニ、100円ショップを巡って入手できる材料を確認
制作中は、とにかく行く先々(期間中、北は北海道の室蘭から南は島根の石見まで、人の多さでは東京から大阪、仙台、札幌から人口数千の村まで、本業のついでに足を運びました(一応書くと仕事なので移動の度に抗原検査しました))でスーパー、コンビニ、100円ショップで食品やお菓子のパッケージ、それに工作資材や工具まで見まくって「入手のし易さ、購入価格(普通に買える感じのものかどうか?)、展開しやすさ(箱などの壊しやすさと、逆の壊れにくさも)」を確認します。
すると「シリアルの箱を使います」とか「お菓子の空き箱」とか気軽に言えない状況が見えてきます。例えば、シリアルの箱は一部の業務用スーパーか高級スーパーでしかお目にかかれず、今やシリアルはプラスチックパックで主に供給されていることが分かります。またアイスクリームの紙パックは特定の高級アイスクリームしか見当たらないので代替物を探してみると意外とカップ麺の容器が使えそうな事を発見したりします。
そんな感じで、材料や道具の検証を終えたら作り方も全部原書に書いてある通りにやってみて気に掛かるところや難しいところを指摘したり別な方法を提案したりと一つひとつ問題を見つけては解決していきます。
ティンカリングの余地をデザインする
ただ途中でふと、普通のダンボール工作本と本書の違いは何だろう?と立ち止まって振り返ってみた時に、 普通のダンボール工作本が「作り方を示すマニュアル」である事に対して、本書は「ティンカリング(さまざまな素材や道具、機械を自分なりに弄くり回すことでデザインセンスや問題解決の力を高める手法、と言われている)」を身につけることが主な目的となる、という違いがあります。※僕もそこに惹かれて今回のお話を受けさせていただきました。
そのため、素材を選ぶこともその一部であると考え、その後の作り方の部分も含め、あまり言い過ぎない(提案しすぎない)様に努めて、本書のコンセプトに沿って「ティンカリングの余地をデザイン」することを心がけました。
その基準みたいなものが一度頭の中にできてからは、試行錯誤が減って工作手順の確認においても指摘すべき点が明確になっていきました。その結果、実際に修正すべき点などは最低限になり、逆に自分で考える余地が広げられて良かったと思っています。
監訳を終えて
そんなこんなを何度か繰り返し、オンラインでコメントをやり取りしながら「監訳」の作業は終了し、みなさまのお力で無事本ができあがったのでした。
この自分がした一連の作業が本当に「監訳」と言うモノなのか?は定かではないのですが、まずは1冊の本という形になったので、ひと安心しているところです。その役割が全うできたかどうかは?これから本を手に取る方たちの評価で明確になっていくのかと思いますのであ~だこ~だは置いておいて。。。
監訳を終えるにあたりとても残念に思ったことがあります。
本書に掲載された幾つかのモノは、作ったはいいが遊ぶ場所(=ティンカリングする場所や機会)が限られる、または思い当たらないことです。
例えば、大きなグライダーを作って飛行原理を理解することに挑戦するなど、広くて誰もいなくて大きなモノを飛ばせる場所の見当が私にはつきません。より遠くに飛ばすことが理解への近道なのに、その限界を見極める場所がないことがとても残念に思います。そのティンカリングをできる人はとても限られてくると思っています。
昔は用途の決まっていない土地=空き地が都内でも散見され、いろいろな遊びや工作の場として活用されていました。今はドコを見回してもそんな余地は、実際の場所にも社会的環境にも皆無に近くなっています。
スマートフォンなどを通して、目で見るだけで&検索するだけで世の中の仕組みを大分知ることができる様になりましたが、自ら能動的に作って検証することで得られる深い理解は「見るだけ」の受動的なものとは世の中の見え方が異なってくると思われます。※ゴンドラ猫の実験が参考になるかもしれません。(日本語だとコチラの表記が参考になります)
深い理解を助ける、自ら能動的に頭と手を使って作り&遊び&検証することが次の発想に繋がっていくと信じている私としては、本書の全てを満喫できない現在の私達を取り囲む環境をとても残念に思っています。では、どうしたら良いのでしょう?
今まで、そこまで考えたことが無かったので、これから考えて行きたいと思います。
そんな考えに出会えたのがこの本です。こんな本に関われたことを深く感謝いたします。ありがとうございました。
段ボールで作る! 動く、飛ぶ、遊ぶ工作
――身近な材料で学ぶエンジニアリング
PS.巻末に型紙があるのと、付箋で見返すこと多そうなので、個人的には実物の本をオススメしておきます。